プライバシーコイン再考: 日本での規制をきっかけに
本記事は、ZenCash 共同設立者の Robert Viglione が CoinDesk に寄稿した記事を、CoinDesk の許可を得て翻訳した記事となっています。原文はこちらからご覧いただけます。なお、事実関係を明確とするために一部加筆修正を施した箇所があります。
日本の暗号通貨規制担当者たちは、未知なる領域へ踏み込もうとしている。あなたが暗号通貨に関心があるのであれば、この点を軽率に捉えてはならない。
ブロックチェーンをベースとした各種プロジェクトの盛んな発展によって、アジア地域における暗号通貨先進国として期待されていた日本であるが、日本国内の経済圏において暗号通貨が担うべき役割に関し、ここ数ヶ月の間で突如、国としての方針が変更されることとなった。
中でも、プライバシーコインを取り巻く日本の状況は、特に先行きが怪しいものとなっている。
今後を占うにあたり、暗号通貨業界に携わる企業 (特にプライバシーという概念を重視する企業) においては、プライバシーコインが社会一般にもたらす影響を考えるにあたって、悪い点というよりは良い側面に関してフォーカスしていくべきだ。そして、日本ひいてはそれ以外の国において、プライバシーコインに対する規制の緩和を求めていけるようにすべきだ。
なぜ匿名性が重要か
暗号通貨の専門家に対して、暗号通貨の本質的な特徴は何であるかと問うたならば、改ざん不可能性 (immutability)、代替可能性 (fungibility)、非中央集権化 (decentralization) および秘匿性 (confidentiality) という答えが返ってくることだろう。一見するとこれらは相容れないもののように見えるかもしれないが、暗号通貨業界の長期的な発展を考えるにあたって、これらの概念は皆同様に大切なのだ。
あるプラットフォームが真なる「非中央集権化」を達成するためには、中央集権化された組織による操作やコントロールといったものを排除しなければならず、これを実現する上で「秘匿性」は欠かせない。Equifax や Facebook といった大手多国籍企業におけるハッキング事例を鑑みると、個人情報を保護する必要性が現在ほど高まっている時期はないといっても良い。
実際、2018 年において現在に至るまでの間で既に 12,918,657 ものデータが盗まれたと推定されており、この数字は増加の一途をたどることが予想される。こうした状況であるがゆえに、大手多国籍企業やハッカーから個人情報を保護するにあたって、ブロックチェーンをベースとした暗号理論的にセキュアな暗号通貨プロジェクトが非常に重要となるのだ。
同じように、あるプラットフォームを「改ざん不可能」とするためにはこれが極めて透明化されている必要があるが、そのためには同時にプライバシーを保障することが重要となる。暗号通貨におけるトランザクションが発生するたびに、ユーザーの情報がネットワーク全体に知れ渡っているという点を忘れてはならない。
一見すると、ビットコイン、イーサリアムをはじめとしたほとんどの暗号通貨が、上述した条件を満たしているようにも思える。しかしながら、暗号通貨システムをハッキングするための様々な手法が近年編み出されてきたという事実もある。ここにおいて一度ハッキングされたならば、単一のトランザクションに止まらず、過去の取引履歴全てに対してユーザーを紐付けることが可能となるのだ。
伝統的な暗号通貨において、こうした脅威に太刀打ちできないという事実は、もはや明確となりつつある。こうした中、各種取引所において、より堅固な暗号技術を用いることでプラットフォームをさらにセキュアなものとする必要が出てくるのは自然な流れなのだ。
スケープゴートされた存在としてのプライバシーという概念
では、今後の展開はどのようになるのか?日本金融庁によれば、匿名性を利用した犯罪行為を防ぐために、プライバシーコインを規制していく方向で動いていくようだ。
これは確かに、正当な論理である。コインチェックのハッキングの際も、暗号通貨において根本的に存在するところの匿名性という機能が存在していなかったとしたら、犯人の特定が格段に容易であったことは間違いないだろう。
しかしながら、ここでよく考えて欲しい。そもそもこのハッキング事件が発生した背景には様々な要因が存在しており、匿名性という概念は事件発生に際して一切関係なかったのだ。仮に、プライバシーコインに対する金融庁規制強化の主な背景としてコインチェック事件が存在しているとしたならば、プライバシーコインはここにおいて不運にも無実の罪を負わされた存在ということになる。
(訳者追記: コインチェック事件を背景の一つとして金融庁により開催された「仮想通貨交換業等に関する研究会」において、有識者の方々による意見交換が行われました。「匿名通貨」に関しては、コインチェック事件以後における業界のあり方を見直すという文脈において、それらが持つ匿名性という特徴に対する懸念が表明されている一方、国内における「匿名通貨」の取引規制は現実問題として困難である点などに関し、議論がなされています。議事録は以下のリンクからご覧いただけます:仮想通貨交換業等に関する研究会」(第1回)、仮想通貨交換業等に関する研究会」(第2回))。
したがって、日本を発端としたプライバシーコインに対する規制が今後世界中で大々的に展開されることに歯止めをかけるべく、各種暗号通貨プロジェクトは自ら率先して、ブロックチェーン業界においてプライバシーコインがもたらす利益に関し、規制担当者たちに伝えていくべきだ。
日本金融庁における今回の一連の動きは、プライバシーコインの立ち位置ならびに、これが経済に対して提供することのできるベネフィットに関して政府機関が疑問を投げかけたという一例であり、こうした動きが今後も出てくることは間違いない。
したがって、暗号通貨業界に携わる者としては、プライバシーコインの様々なユースケースに関する誤解を払拭し、本業界を長きにわたって発展させていくことができるように、今のうちから適切な手段を講じることが重要なのだ。